骨髄腫学会2023は浜松町コンベンショナルホールで開催されていた。

先日、骨髄腫学会2023に参加した。

https://www.jsm2023.org/

最初は会場が浜松町コンベンショナルセンターだったので、静岡での開催と思っていたけど東京でした。

コンベンションて

基礎実験の演題が採用されたので参加してみました。大きな感想としては3つです。

1、骨髄腫の研究を本気でしている施設が日本にいることが実感できて、なんとなく心強く思った。

最近ボスから自分のテーマを基礎でやってもいい、とお達しがきた。色々考えていて、まだテーマ自体は決めれていないが、疾患は現在の実験のテーマでもある、骨髄腫についての研究をしたいと思っている。

今まで臨床研究でDLBCL, MDSを扱って研究として形にしてきた。その疾患を選んだのは研究したかったというより、患者数が多く臨床研究として形にしやすそうだから、という部分が大きかった。もちろん、形にした研究は知りたいテーマではあったがきっかけはnが多くてやりやすそうだな、って感じでした。別に悪いとも思ってませんが、ピュアではない。

それでいうと今回、骨髄腫をテーマに選んだのも今までやっているから、今までそれなりに勉強したから形にするのもやりやすいのではないか、という理由なので僕のテーマの決め方ってやりやすそうなのから手を出すというスタイルなのでしょう。

とにかく今後、ある程度の時間を骨髄腫の研究に費やすことになると思いはじめた時に参加した学会で、日本でこれだけ骨髄腫についての研究を真剣にしているところがあるのを実際に見て、なんとなく心強く感じました。贅沢を言うとちょっと少ないような気もしたが、これが日本の現状なのでしょう。

今後テーマを決めてやって行くうちに、わからないことや迷うようなことが出てきたらボスはもちろん、他施設の人たちに聞けちゃうのだなと思ったのでした。

学会の帰りの新幹線はボスと隣どうしで帰ったのですが、

「テーマについて迷っていて、1q gain他の血液始めとした癌にないのが気になっていて、その関連でできないかと思っている」

と相談したところ

「確かに面白いけど今研究室で色々お蔵入りしているものとかからやる方が方法論もあったりしていいんじゃない?」

と言う答えとともに色んなお蔵に入ったものたちを見せてくれた。

僕はコネクティングドットを信じていて、そういう観点で探していたはずなのに、自分のオリジナルを出そうとしていたな、と反省しました。別に反省することでもないですが、改めてその方向にしてくれたボスには感謝です。

2、MRさんが結構多い。

学会は5/26(金)-5/28(日)までで、僕は土曜日の朝一番に会場に入りました。参加登録を忘れていたのでその場でweb経由で登録、そのせいで開会式は出れませんでした。とほほ。

ちなみに土曜日の夜にボスと仲が良い先生(有名人)とその施設の何人かと我々の教室の何人かで飲み会があると決まっていました。僕は翌日に発表だったのでスーツは温存してその飲み会のために私服で会に参加しました。そうすると参加者にはMRさんが多くて、さらに発表している若手以外はほとんどが上の人だと言うこともあり、参加者はバシッとスーツ、私服はおそらく僕1人でした。とほほ(パート2)

次からはもう学会はスーツスタイルを心に誓いました。

楽しそう

3、練習はやっぱり30回くらいはした方がいい。

発表日までの練習はおそらく20回程度でした。それもあってか結構噛んでしまいましたし、(webで奥さんが見た感想、、)マイクも遠くて少し聞き取りにくかったみたいです。

前に書いたかもしれませんが、確かに30回くらいの練習はあった方がいいと思っています。(プレゼン、練習回数、で検索すると100回とか出てきますが、僕は30回程度で大丈夫と思います。プレゼンの重要さにもよるかもしれませんが。)

今回はスライドをGW明けにはボスに渡したのが返ってきていたのであとは少しブラッシュアップしてしゃべる内容を考えるだけ、という状態だったのですが、重い腰が上がったのが発表の3日前くらいでした。。。。20回くらいでも大丈夫と思っていましたが、やっぱり現実は非常である (答え③)。これを糧に次のステップを目指します。

前述のテーマ選びとその数日前にあった抄読会に力を入れ過ぎたことが敗因です。そして力を入れすぎた抄読会では勢いが強すぎてカンファのファシリの先生から苦言をもらってしまいました。面白いことをわかりやすく伝えることを重要と思っていたのにそんなコメントをもらうような発表をしてしまって大反省です。

大学院生の発表に苦言を入れるのはあかん、とかしっかり勉強したからええやん、とか合理化はできますが、ここは反省を多めで次に繋げたいと思います。

4、その他トリビア

せっかくなので今回学会に行って色々メモっていますのでその復習がてら色々メモっときます。

ちょっとぼかしています
  • del 17pについて

55%以上などのカットオフがあるみたい、30%でも良いかもというデータもあるみたいです。欧米のデータなので骨髄検体をセレクションしたあとなので、単純に日本のデータにはできません。

del17pだけではなく、TP53変異が合併するとさらに悪くなる。違いがあります。CLLでも言われてますよね。

さらにこれらはNGSによる解析であり、FISHで、しかもセレクションをしていない日本のデータは弱い事態になってそうです。

あと、再発難治で多い理由としては獲得していくというより元から少数存在しているクローンがselectionで拡大していくの派が多い印象でした。治療ターゲットとしてはその悪くなるクローンを最初に根絶するのがいい戦略なのかなと思いました。Lv1の勇者を最初の村でやっつける、みたいな。

  • メンテナンス

IFM/DFCI 2009などから基本的にメンテナンスは必要で、ハイリスクはIxaで、スタンダードはLen、期間としては2年はとりあえず必要っていう感じでした。メンテナンスはほんまに必要かわからへんっていうニュアンスがなくなってきた印象です。

  • データサンプル

GSE136337というのを予後分析に使っている研究があってこれは使えるのかなあ。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/query/acc.cgi?acc=GSE136337

  • トンネルナノチューブ (TNT)

ストローマ細胞から小さな管がでて、miRなど色々物質を送ったりしているらしい。長老的ミエローマニアの先生が聞きまくっていました。

https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v14/n12/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%AA%E3%81%90%E3%83%8A%E3%83%8E%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%96/90179

ストローマ細胞にも関わらず相互作用に関する研究が多かったです。ちなみに使用するストローマとしては患者由来細胞が多いみたいです。

  • 低酸素

CD38が落ちるらしい。骨髄の環境は低酸素であり、実験系を考えても良いと思いました。

ちなみに1q gainでもCD38が落ちるみたいです。

  • 治療における高血圧の目標について

HFA-ICOSと言うのが腫瘍循環器領域で作られているみたいです。いろんなリスクで目標を考えるみたいです。

https://www.cancercalc.com/hfa-icos_cardio_oncology_risk_assessment.php

そんなところでしょうか。

ちなみにそろそろEHAですが、今になって演題出してwebで発表しといたらよかった。やっぱり発表することでしか得られないことって多い気がする。travel award落ちたからってやめたのを少し悔やんでます。ほんの少しですが。

今見返すとめちゃ落ち込んでる

いきなりすごい勢いで服を脱ぎ出して脱ぎ終わってから「何秒!?」っていう一発ギャグがずっと頭に残っている。

ここ数日でいくつかの計画が無事遂行されたのでその備忘録を。ちなみにタイトルは大学の部活の飲み会で行われたギャグ大会で後輩がしたギャグだ。

いくつか遂行した、とい書いたがそのどれもが遂行されただけで成功してはいない。いや、成功したかはまだわかっていない。走り切ったけどまだタイムがわからないって感覚。3つの計画だったのでさながらトライアスロンってとこ。

まずは水泳にあたる第一競技。12月1日に受けたバイオインフォマティクス技術者認定試験。

https://www.jsbi.org/activity/nintei/

基礎研究をしていて論文などを読んでいると遺伝子発現の結果や、綺麗なfigureの解釈がわからん、などといった大学院生あるある。なんとか自分も足をつっこみたい、理解したいし、なんなら使いこなしたい。でも何をしたら良いかもわからない。ということで最初は解析の勉強をしようとして統計学2級を目指していた。

かめさんの動画とかである程度勉強してある程度はわかっていたがその先の自分で操るというような段階に行くまでのステップが大きくなかなか羽ばたけなかった。そんなところにこの試験の存在を知ってとりあえずこっちも勉強してみるか、という気持ちで勉強し始めた。

ちなみにそのかめさんの動画、正直めちゃおすすめ

過去問を1年分やったくらいで分子生物学の話が結構でていたのがとても面白く思った。中でも超可変領域の存在で一気にこの試験のやる気が出た。超可変領域はタンパクの中で反応が起こりやすい部分で、アミノ酸配列である程度決まっており、遺伝子の配列を見るだけでそれがどこにあるかがわかる、といったものだ。例えばTP53はさまざまな分子に働きかけたり働きかけられたりして重要な働きをしているが、その様々な分子との相互作用を可能にしているのがその超可変領域である。

臨床をしていた時にはタンパク質がアミノ酸が連なったもの、くらいしか考えていなかった。しかしアミノ酸はランダムに連なっているのではなく、そのタンパク質の働きを遂行できるような形や機能をつながり方で規定しており、アミノ酸の種類だけでなくその配列も重要である、という概念は僕の中では新しい扉を開けた。気がする。

さらにその超可変領域を知った時にちょうど研究カンファで、研究派の先生が気になる分子の中に超可変領域があることに着目してある仮説の着想を得た、みたいな話をしていた。このバイオインフォマティクスの試験勉強をしていなかったら全く知らなかったことが、常識なのかもしれないという焦りに似た感情が湧き出て、とりあえず受かるくらいまでは勉強しようかと思った。

しかしこのバイオインフォマティクス、インフォマティクスのところが曲者で、遺伝子配列の決定のアルゴリズムであったり、質量分析の方法論であったり全く自分の実験に触れていないカテゴリーの問題は全くわからない。全くは言い過ぎだが結局わからないままで終わった気がする。ただ、なんとなく雰囲気は掴めているので必要となったら勉強はしやすいと思うので及第点ということにしておく。

試験はCBTという方式で、試験センターに行ってパソコンで受けるスタイルだった。その場で結果がわかって、結果は66%だった。60%以上が合格のラインなはずなので受かったと思うが点数が点数だけにあんまり達成感はない。でも生命科学と遺伝進化の範囲はなんと100%だった。今まで試験であんまり100%って部分的にも出したことなかったので嬉しい。

次はトライアスロンでいうと自転車、それは12月13日の抄読会。内容はかなり迷ったけどNatureのCHIPの大規模解析についてにした。僕はなんとなくCHIPが好きだ。前癌病変であるが結構多くの人が持っているというのがなんか大きな意味を持っているような気がする。人が生きる上で。

謎の哲学はさておき、この論文はSNPの変異を年齢とVAFを使ってgermlineの変異か判断してCHIPにどれくらい寄与しているかを調べている。今までで一番大きな規模が6万人くらいだったのが今回は60万人という超大規模解析。CHIPはいろんな癌と関連しそうな遺伝子が関わってそうということと、mLOYとかmLOXとかmCAのような染色体異常の視点から見たクローン性造血とは重なっていなかったこと、血液がんはもちろん固形がんも種類によっちゃ多くなっちゃうこと、そして心血管病とはあまり関係ないかも、という内容。

染色体異常のクローンと違うっていうのは面白い。元々のイメージは遺伝子異常が増えて染色体異常が起こってくるものと思っていたので染色体異常を持っている人は遺伝子異常を持っていると思っていたが、両者は含有の関係ではなく、互いに違う集合だった。つまり、遺伝子異常と染色体異常は別なものを見ているということなのだろう。ちょうど今臨床研究しているテーマについても面白い考察になるのかなと思った。

あと、質問ももらったのだが血液がんはわかるが固形がんはなんで増えるのかという疑問は確かにある。僕の理解ではCHIPを持ってしまう人は遺伝子の不安定性が高く、増血器以外の組織においても前癌病変であるクローンが起こりやすいのではないかと思ったのだが実際はどう解釈されているのだろうか。

ちなみに僕はNatureとかから抄読会の論文を選ぶのが多い。理由としては自然科学系の雑誌はあまり目に入ってこないから他の人にとっても意味があると思っているということと、あるHPでそっち系の論文の紹介をしてるからということがある。

https://aasj.jp/

本当はこの論文を選ぶ前にAMLのMRDのことについての報告でしようかなと思っていた。実際3割くらい完成させていた。

日本血液学会でAMLのFCMによるMRDの話を聞いてその勉強がてらJCOで出たFLT3AMLのMRDについての論文でやろうと思ったのだがCHIPの論文を見て、解析の仕方とか結構ちんぷんかんぷんだがチャレンジしてみたい!という精神が勝ってしまった。この辺りは僕の秘めたる衝動性なのだろう。

やはりAMLにおいてFCMでのMRDはある程度はコンセンサスが生まれつつありそうな感じだ。JCOの論文ではNGSのMRDの方がいい、という結論だったが。

Blood. 2022 Sep 22;140(12):1345-1377. とか、https://ashpublications.org/hematology/article/2022/1/9/493487/Achieving-MRD-negativity-in-AML-how-important-is とかが参考になりそう。

そして最後はある学会のトラベルアワードの応募、これが結構たいへんやった。内容はこの2月くらいから画策し始めた他施設共同の臨床研究の結果についてで内容は伏せますが、なんといっても結果が揃ったのが12月2日、つまりこのトライアスロンが始まったあたりから大変なレースが始まっていたのです。

まずはデータの整理、そして計画していた2つのテーマの解析、ひとつのテーマは結局有意差はなく、発表には耐えれそうにないと判断、そしてもうひとつのテーマはindexの作成だったのでたくさんの解析、そしてその解析は本当にたくさんするのでEZRでするには手間がかかりすぎるのでRコードを書くことを決意、そしてなんとか形にすることに成功!そして抄録をセット!ターン終了だ!

ということでASHにいく直前のボスに抄録をいきなり渡してトラベルアワードへの推薦の許可をいただいた。抄録書いたのでよければ推薦お願いします!って感じだったが今考えるともう少し丁寧にことを進めても良かったのかもしれない。トラベルワードありますけど抄録書いていいですか?みたいに。結構寝不足だったし気持ちも昂っていたということだろう。許可をもらえて安心したのも束の間、署名が必要なことに気がついたのはボスがASHでアメリカへ行った後。そして締切は今日、つまり昨日帰ってきたボスのASH後初通勤日。基礎実験と有意差がなかった方の臨床研究の方針相談に付き合ってもらってから無事に署名入り推薦書をいただいたのであった。

そして先ほど(といっても19時くらい)必要書類一式を送信しこの激しいレースを無事完走した。実際ASHも採択されてないし今回の試験とか応募とかもなんとなく弱気だがやってる感は出たし、興奮できたしで楽しかったので今後も色々チャレンジはしていこうと新たに決意したのであった。

去年は症例報告2報と臨床研究1報出せたのに今年は成果としては何もなく、焦る気持ちはあるが年度として考えて、あと3ヶ月過ごそうと思う。可能ならばもう少し色んな種を蒔いて来年度に回収できるようにしたい。そんな当直中。

振り返り、JSH2022、人に優しく自分に厳しく。

1週間前、僕は九州は博多にいた。今の時間はちょうど教授と同期と居酒屋で焼き鳥を食べていた。

JSH2022、いわゆる日血。今年は九州大学の赤司先生が会長で、福岡でハイブリッドでの開催となった。僕は1日目にポスター、3日目にoralで発表してきた。久しぶりの現地開催で参加できたのでレポート的なものを書いてみる。

1日目

朝の5時に出発、暗い中最寄りの駅まで歩いた。家族3人で。

学会参加の間、奥さんと娘が愛知県の実家に帰ることになり、出発を一緒にしたのだ。お父さんは学会へ、お母さんは実家へ。

そして新幹線で博多へ。せっかくなので同期と一緒に仲良く乗った。ここで、ハプニング。同期の分も新幹線のチケットをとったのだが、事前に僕だけ発券したと思っていたら、実は同期の分も発券されており、同期が博多駅の駅員さんにバチバチにキレ倒した後にそれに気がついた、という話。思い込みは怖いなと改めて実感。普通に許してくれた同期にも感謝。

そんなこんなで到着。

この学会での一つのテーマは機械学習だった。自分が少し勉強していて、その未来性を確信している手法がどのくらい今の日本の血液内科に浸透しているのかを実感することをテーマとした。演題でAIやmachine lerningでヒットしたのは5件程度だけであった。

1日目の午前中に2つの機械学習を使った演題があった。

ひとつはM2マクロファージを認識するために使ったもの、もうひとつはCML細胞をFCMで判定するものであった。どちらも画像認識をうまく使ったものであった。

あとベネトクラックスの血中濃度の発表も見た。中等度阻害のものを使った場合、100mgにしても濃度は高くなってそうだった。VEN+AZAに関しては色々話題があった。なんなら今回はVENだけでセッションが立つくらいだった。みんなが待っていたんだろう。よく言われるけどAMLって薬がなかったから効いたらならケモ→移植、ケモの内容はアントラサイクリン系+中当量キロサイド、ダメならMECやFLAGMなどETP足すか、大量キロサイド、それでもダメなら非寛解移植って感じでまさに修羅、ケモ地獄の血液内科だった。でもVEN+AZAが出てからは治癒目指す人にはマイルドな選択肢が増え、さらに移植ができないような高齢者にマイルドな治療ができるっていうのが本当に救われた感がある。患者もそうだが僕ら血液内科も救われたのかなと思う。治る可能性が低い人への強めケモはやっぱりしんどい。病棟スタッフ含めてみんなが疲弊してしまう。そんな心理があってか大流行りだったのだろう。

ランチョンはAMLのMRDを見た。考えればMMみたいにFCMで出来そうだ。AMLは再発時にクローンが変わるのが多いのがネックかと思ったら80-90%は検出できるみたいで、有用そうだった。

その後は会長公演とワイズマンというダンブルドアみたいな人の話を聞いた。白血病が分化後の細胞からではなく、幹細胞が出自だという概念には驚いた。それもあって分化の話は結構熱いのかと納得した。

午後にも一つ機械学習の発表があった。scRNAseqから機械学習でその段階の細胞集団が揺らいでいるかどうかを検出できる技術を使ったものだった。分化って奥が深い。

あと、biobank japanのデータを使ったgerm line と関連があるリンパ腫についての解析の発表も見た。こっそりテーマと思っている分野でまたじっくり考えてみたいと思った。

最後にポスターで発表した。発表したというかポスターの前に立っていただけ。Facebookにあげる用の写真を撮りに来た教授と、隣のポスターの人、昔我々の研究室でPhDを取って今は製薬会社で働いている人が話しかけてくれた。そして終了後にMRさんが数名話しかけてきた。コロナ禍で全く会っていないMRさんが僕のことを認識していて、話しかけてくれるのはすごい。どんな訓練を受けているのだろう。

夜は昔市中病院にいた時のボス、その同期、そして僕の同期の4人で居酒屋に行った。居酒屋で喋りながら飲むのが久しぶりで楽しかったし、やっぱり料理が美味しかった。

ボスの同期は製薬会社で働いていて、企業としての人の成長させ方の話は面白かった。というか、病院の医者はやっぱり教育や経営についての系統だった教育がなされていないので他の業種では当たり前ができていないのだろうな、というのを痛感した。ショックでもあった。知らないのって損やし搾取されているのではないかと思う。

あと、大学院2年目の時に辛かった話を聞いてくれて、それって自分がしょうもないミスをしている自分を許されへんから辛かったのではないか、というボスの考察が(ボスもそうだったみたい)とても自分の中にすっと入ってきて、なんだか気持ちが軽くなった気がした。

ちなみにコングレスバックは奥さんに色を聞いて、返信来るまで何個かのセッション聞いて、言われた色を取りにいったらなくなっていた。紺と水色のどちらかというチョイスだった。意外と他の血液内科の先生はセンスがあるのかと思った。そして奥さんもすごいなと思った。

ちょっと長くなり始めたのでここで区切る。

ASH22に落ちた話とJSH2022の準備をしている話

最近の身の上話を備忘録的に書いていく。

2022年9月30日の朝にASHから不採用のメールがきた。

3年前の同じくらいの時期に採択の通知メールがきた。その時は急性期の市中病院でたくさんの患者を見ながらの通知で舞い上がったし、今回も舞い上がりたい気持ちがとても強かった。

しかも、その1週間くらい前に後輩に不採用の通知が来たと聞いていたので、採用されているのではないかという期待が大きくなっていた。3年前はまず不採用者にメールが来て、その後に採用者にメールが来る流れだったからだ。でも今年は先輩が採用されており、その通知メールが同じ日時であったことからおそらく同時の通知メール送信になったのであろう。その方がイベント性もあるしいいと思う。

実はちょっと長いスパンの計画から始まった研究であり、その話を記しておこうと思う。

計画は今年の2月くらいに思いついた。臨床研究論文をASHを経て書く、というものだった。

まずは大学病院の50例くらいを使って、今年の4月に抄録の締め切りがあった日本血液学会に演題を提出した。テーマはほぼ同じコホートを使った少し切り口の違う研究2つだった。教授からこれらをパイロットスタディとして大学関連施設6施設から症例を集める多施設共同研究を計画する許可をもらった。我々の教授は若いということもあってか僕らの提案には厳しい目を持ちながらであるが寛容である。見習いたいものだ。同期とはちゃん呼びしている。

多施設での臨床研究を実施するのは今回が2回目であり、結局症例のデータは自分で集めるのが早いと痛感していたので、今回もそのつもりであった。しかしおそらく300弱の症例になるので一人で集めるのは大変だし、集計時の計算のミスの危険性もある。ということで同じコホートで違う角度の研究を同時にできるというメリットつきで一緒に研究をする人を探した。ありがたく、後輩のI君が手を上げてくれた。大学院1年目で、臨床研究の経験はないが、そんなことはどうでもいいくらい、優秀で人当たりが良い後輩である。逆に彼に僕と研究してよかったと思ってもらえるよう意識しなければ、と焦った。気がする。とりあえずスピード感を持って、具体的に前に物事を進めていくということを意識した。つまり相談されたことはできるだけ早く返し、具体的な改善点を添えるようにした。スピード感を持ってってなんだか政治家みたいだ。

理想の先輩ないしは上司像、というのが今の僕にはある。自分の興味あること(今で言うと研究)を現役でたくさんしていて、一緒にするとなればとりあえず前に進めてくれる人、である。昔臨床研究のさわりを教えてくれた先生や今の教授がモデルであるが、僕はとてもそういう接し方をしてもらってとても得をしたし、みんなに得をしてもらいたいと思って心がけている。間話。

I君と一緒に研究するとなってからはコソコソ相談→教授にお伺い→実施→コソコソ相談→教授にお伺い→実施、という感じで計画立案、各施設へのお願いの手紙、倫理委員会、データ採取などを進めていった。そして7月くらいには3施設から症例が既に集まり、そのコホートで8月に締め切りがあるASHへ提出した。

100例くらいのコホートで、2つの項目を使って中央値のOSが8ヶ月と26ヶ月の2群に分けれる、というような研究とした。実はその2つは機械学習を使ってOSの期間の予測寄与が高いものを検索して選んだ。機械学習については2021年の秋にプログラミングから勉強し始めたもので、どこにつながるかはまだわからないが、気合を入れればある程度のことはできる、ところまでできるようになったと思う。ちなみに今年の日本血液学会(JSH2022)では機械学習を使用した演題は5題程度であり、世間での流行り方や、その有用性を考えるとまだ血液内科では先取りできているのではないかと思っている。

そんなこんなでASHへ提出したくらいに日本血液学会に出した演題がoralとposterで採択となったという通知が来た。今までならスライド作成などは直近まで手をかけないが、今回は3月くらいからの計画ということもあってか9月の中旬にはある程度完成させた。最近研究カンファも先に先に準備できるようになった。人は30過ぎても成長できるのだなと実感している。

ポスターの方はバラバラのスライドをA4に印刷し、現地で貼ろうと思っていたところ、教授から「おそらくその形式の人は20人に1人くらいやし、惨めで胸がキュッとしてしまうと思うからお勧めしない」と言われ変更した。しかし作ってみるとなかなかいい感じのものができた。

個人的にはこのグラフィカルサマリ(そんな言葉があるか知らないが)が気に入っている。

これらの研究は残り施設から症例データを集めて論文にする予定である。実は大学院生を対象とした論文賞と海外学会発表賞があって、残りの大学院生生活で頑張ってみたいなと思っている。遊ぶ金欲しさである。

この計画はベッド持ちの大学院2年生の年度末に作ったものである。その時分は基礎研究の実験とベッドの仕事でややパンク状態であり、とてもしんどかった。思い出すと動悸がする、気がする。そんなしんどい時に、未来に楽しみを作ることで心の平安を保とうとして作ったものであるのだ。大学の症例をパイロットスタディとして日本血液学会へ提出し、それをもとに他施設共同研究にして症例100以上で有意差が出れば採択されるという噂のASHに出して、パンデミックがどうなっているかわからないがアメリカへ行って、という楽しみを作ることで乗り越えようとして作った計画だったのである。結局ASHの採択はなかったが、この4月からのベッドフリー期間にメリハリをつけて生活することができた。メリハリというか楽しみか。

結局ASHでの採択はなかったが、I君との相談は楽しいし、研究を完成させる楽しみもできた。さらに僕は研究することが好きなのかなと改めて感じることができている。あの時、しんどい時にあえてやることを増やしてまで楽しみをとる、と踏ん張った過去の自分を褒めてあげようと思う。

DLBCLではR-CHOPがDA-EPOCH-Rより優れていることを証明してしまった、ていう話

どーも、職業は大学院生、ちゃんまんです。

そうなんです。今30歳過ぎなんですけど血液内科医として働きつつも学生として学費を納めているのです。ただ、まだ学生らしい勉強(研究)はしていないので、時間が余っているのです。

ただ、ちょうど奥さん(かわいい)が妊娠しましてその手伝いができたのでよしとしてます。

今日はこれ。

CHOP as Frontline Therapy for Diffuse Large B-Cell Lymphoma: Clinical Outcomes of the Phase III Intergroup Trial Alliance/CALGB 50303

J Clin Oncol 37:1790-1799.

アメリカのAlliance/CALGBからDLBCLに対してR-CHOPとDA-EPOCH-Rの治療成績の比較を第三相試験で行った研究です。

DLBCLはR-CHOPで治る、といっても何割かが難治性です。そこをなんとかするために、使う抗がん剤は似ていますが①持続であること②投与量を個人ごとにあげることが出来る、という特徴のDA-EPOCH-Rに白羽の矢が立ちました。

いくつかの先行研究でR-CHOPよりいいかも、という結果もありまして万を辞して第三相が始まりました。

しかし結局題名の通りDA-EPOCH-RではRCHOPに勝てませんでした。

では、以下内容です。

患者

対象は2005年-2013年にStageⅡ以上のDLBCLと診断された方、PMBLとIVLも含まれていました。マルクや病理組織でindolentリンパ腫が検出された場合は除外されています。CNS病変,HIV関連も除外されています。

491人が解析対象となっています。それらをRCHOP群とDA-EPOCH-R群に1:1に分けられました。ちなみに節外病変が2つ以上、骨髄浸潤あり、LDH上昇例はCNS予防としてMTXの髄注を実施されています。

全体でステージ3/4が74%を占めており、19%が70歳以上、2.6%が80歳以上でした。

MYCとかについて

MYCのFISHは249(50.7%)で実施されその中でダブルヒットと判明した3例は除外されました。

ダブルエクスプレッサーかどうかはMYC>40%, BCL2>50%で定義し、270人検査され42人が陽性だったようです。

結果

PFSは同等でありました。

 R-CHOP(n=250)DA-EPOCH-R(n=241)
完遂率88%82%
ORR88%86.70%
2yPFS75.50%78.90%
3yPFS72%75.80%
5yPFS66%68%
CNS再発4%3.30%

こうみると1年くらいでの再発が多くてそれ以降はなだらかに再発していくという感じでしょうか。再発時期による特徴などは気になるところです。

じゃあOSはどうだ?

見事に同じような曲線ですね。解析が出た際の落胆が聞こえてくるようです。

合併症はこちら。

 R-CHOP(n=250)DA-EPOCH-R(n=241)p
grade3-5 event78.20%98.20%<0.001
grade3-4血液毒性73.70%97.50%<0.001
grade3-4非血液毒性43.20%72.20%<0.001
二次生白血病1人2人

まーそうでしょうね。EPOCH結構強いですもん。

ちなみにサブグループでの解析も行われていますが、どのグループもDA-EPOCH-Rの優位性を証明できませんでした。

IPI scoreが悪い人たちはもしかしたらいいかも?いいえ統計学的には同じです。

といったところでRCHOPには勝てず、でした。discussionでは以前のstudyではS2-4のDLBCLorPMBLでは3yPFSが61%であったことを考えると今回のコホートは全体的に良好な患者が多かったのであろうか、などありました。

読後

やはりDLBCLにおいてはRCHOPに勝つレジメンを探すというより、RCHOPで治らない群を探す、ということが重要なのでしょう。あとはRCHOPより毒性が低いが効果が同等なレジメンもしくは薬剤の検索ですかね。

患者数が血液疾患の中では多いだけにそのような研究が待たれるところです。なんならそのような研究をしたいところです。

中国での半合致移植 Leukemia2020より

どーも、Back To The Futureが一番最高の映画と思ってます、ちゃんまんです。

今日は中国からの半合致移植の報告です。

Haploidentical transplantation might have superior graft-versus- leukemia effect than HLA-matched sibling transplantation for high-risk acute myeloid leukemia in first complete remission: a prospective multicentre cohort study

Leukemia (2020) 34:1433–1443

中国の他施設共同前向き試験、CR1で移植を実施し、移植後MRD陽性に対してDLIを実施していく戦略での設定です。

移植ソースを血縁か半合致で層別化しています。

症例数は高リスクAML183人。観察期間は46.6ヶ月(1.5-66.9)。

高リスクはNCCNで定義したようです。複雑核型、モノソーマルカリオタイプ、inv(3)/t(3;3)、t(6;9)、モノソミー5もしくは7、11q23(MLL)、FLT3/ITD、TP53、EVI1。

前処置はBuCy±CA。

GVHD予防はハプロ群はCyA,MTX,MMF,ATG(7.5mg/kg day-3~-1 or 10mg/kg day-4~-1), 血縁群はCyA,MTX,MMF

 半合致群(%)血縁群(%)p値
移植前MRD陽性率33290.627
移植後MRD陽性率1842<0.0001
DLI追加率16370.001
Ⅱ-ⅣGVHD40460.848
Ⅲ-ⅣGVHD11110.948
DLI実施後Ⅱ-ⅣGVHD39670.072
cGVHD39510.274
DLI後cGVHD39590.22
EBVウイルス血症1年累積発症率30100.001
EBV関連疾患2年累積発症率620.14
3年再発率14240.101
3年TRM15100.368
3yOS72680.687
 3yDFS71660.579
nはハプロ群が少ないので感染での死亡は多いのだろうか

半合致移植はGVL効果がある、と結論つけていますがどちらかいうと血縁群でも移植後MRD陽性時にDLIを追加する戦略は効果的である、という結論にも見えます。

FLT3変異症例には移植後にFLT3阻害剤を使用しており、移植後治療の重要性が顕著になってきてますね。

ドクが言うところのなせばなるってとこですかね。

春一番が二発ー無顆粒球症と発熱性好中球減少症ー

どーも、持ち前の明るさを活かしたい、ちゃんまんです。

世間は新型コロナウイルスで持ちきり、家での待機が余儀なくされており、気分も閉塞気味ですね。

ここで先日僕が体験した春のそよ風についてのお話です。

白血球 低男さん(仮名)いう60歳台男性の白血球が300/μLということで血液内科へ紹介となりました。白血球数の正常値は3000-8000/μLであり、かなり少ないです。

普段、白血球はウイルス、細菌、真菌(カビ)などと戦っています。300/μLまで減ってしまうと感染症にかかりやすくなってしまいます。白血球には種類がありますが、細菌と戦うのは主に好中球です。好中球が少ないと、具体的には500/μL以下の場合は、細菌感染を発症してしまうと重篤になる場合が多いです。なので好中球が少ない状態で発熱していたら、点滴の抗生剤が投与されることが多いです。

具体的には好中球500/μL以下+37.5度以上の発熱=発熱性好中球減少症と言います。白血球が少ないだけでは特に大きな問題はないですが、熱が出てしまうと速やかな抗生剤治療が必要です。

白血球低男さんの好中球は100/μLで38度台の発熱を認めており、発熱性好中球減少症として抗生剤投与を入院となりました。と同時に白血球が減ってしまった原因検索をすることとなりました。

白血球はなぜ減ってしまったのでしょう。

白血球は骨髄、つまり骨の中で造られています。なので白血球が減ってしまった時はまず骨髄できちんと白血球が造られているかを確認しなければいけません。骨髄では赤血球と血小板も同時に作られます。

骨髄で白血球が作られない状況とは、例えば白血病細胞が骨髄を占拠して白血球を作ることを邪魔している場合です。白血病細胞以外にも胃がんなどの癌細胞が骨髄を占拠している場合も同じです。

もしくは何らかの原因で白血球が作れなくなる病態がある場合もあります。再生不良性貧血などがそうです。貧血という名前なのに白血球が減るの?と思われるかもしれませんが、実は再生不良性貧血は白血球、赤血球、血小板が減ってしまう病気です。またいつか紹介したいと思います。

なので骨髄検査を実施しました。

骨髄検査では分化(成長)段階の白血球が多数認められ、白血病細胞などはいませんでした。そして再生不良性貧血のように血球がほとんど見当たらない、ということもありませんでした。

どういうことでしょう?

こういう時は経過が重要です。白血球低男さんは2ヶ月前にくも膜下出血を発症されており、けいれん予防目的にカルバマゼピンを内服していました。そしてよくよく採血結果などを見てみるとカルバマゼピンを内服して4週間後あたりから徐々に白血球数は少なくなっていました。

そう、薬剤性無顆粒球症です。

メルカゾールなどが有名ですがカルバマゼピンもよく原因となります。

治療は原因薬物の中止です。

白血球低男さんのカルバマゼピンは予防投与であったこともありそのまま中止することにしました。すると白血球数は回復し、抗生剤により発熱も3日ほどで治りました。

そろそろ退院の日程を相談しようと訪室したところ白血球低男さんが

「先生も見てくださいよ、この部屋からの景色はいいですよ」

と窓際へ歩いて行ったのでその後ろについていくと

!?

びっくりしました。

そしてびっくりするあまりに

春一番が二発、病室を駆け抜けて行きました。

白血球低男さんは気付いていなかったようです。僕のおならに、そしておそらく自分のおならに。

採択されました!

どーも、にわかラグビーファンのちゃんまんです

ASH(アッシュ)に演題が採択されました。

ASHとは

つまりアメリカの血液学会です。日本では日本血液学会がありますようにアメリカにも学会があって一年に一回の集会があるのです。世界一で一番大きな血液内科学会です。

演題内容はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫において治療経過中のsIL2Rの値が予後に影響を与える、というものです。

臨床研究です。ちょっと最近個人的にはまっている臨床研究です。

自施設からは初めての採択で、自施設のデータで、医師5年目で世界で一番大きな学会に採択されました。

すごくない?

そう書くと凄いです。でも実際やったことは140人くらいのデータ取ってEZRにガシャポンしただけです。データ取るのに時間は取られましたが基本はそれだけです。緻密なストラテジーも高尚な知識もなしです。誰でもできます。

逆にいうとやらないと損なんじゃないかと思うわけです。僕なんかが遠く及ばない賢い人たちにかかればどんどんと進められちゃいます。日本は特に臨床研究が遅れているようで海外の人たちがどんどんと進めているのかと思うと悔しい気持ちになります。

僕に臨床研究を教えてくれた先生が言ってました。臨床研究はやる気さえあれば誰でもできる、スタートする時期なんか関係ない、と。

その口車に乗って初めてみたらASH採択ですよ。すごくない?

僕をきっかけに臨床研究を始める人が出てくれると嬉しいですし、そう思ってもらえるよう頑張りたいと思います。

実際僕が今回ASHにチャレンジしたのも同期が昨年ASHに採択されたのをとても悔しく感じたことが大きかったです。そして今年は採択!すごくない?

と、偉そうなことを書きましたが実は論文を一編も書いてないですしまだまだです。精進します。そして色々教えてくれた方にこの場を借りて感謝します。ありがとうございました。

今回はなんとなく徒然なるままにupしてみました。ちょっと途絶えていましたが定期的にupしていこうと思ってます。ではでは。

よっしゃぁぁ!?ASH採択されたぁぁぁぁぁあああ!!12月にオーランド行きまぁぁぁす!!

濾胞性リンパ腫における早期再発について-POD24って何?-

どうも、最近筋トレ体操にはまっています(見る専)、チャンマンです。

先日Webセミナーで悪性リンパ腫についての講演がありました。その中でPOD24についての話題があがったので紹介させていただきます。

まず、濾胞性リンパ腫について-軽めに-

100種類くらいある(!?)悪性リンパ腫のうちのひとつです。

特徴としては

・悪性リンパ腫の中で2番目に多い(20%程度)
・低悪性度
・化学療法への感受性は良い
・再発を繰り返す
・治癒を目指すには同種造血幹細胞移植が必要

などが挙げられます。のんびりとしてるけど再発はちらつき続ける、というイメージでしょうか。

低悪性度とは勢いがないという意味でして、治癒率と関係ありません。ややこしい。

50%生存期間(=100人患者さんがいた場合で、50人目が亡くなってしまうまでの期間)は20年程度とされています。
つまり濾胞性リンパ腫にかかってしまっても半分以上の方が20年以上は生き続けることができるということです。

しかし残念ながら化学療法だけでは治癒には至らず再発を繰り返します。そして最後には治療抵抗性となり命を落としてしまいます。

悪性リンパ腫の中で一番多いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Diffuse Large B cell Lymphoma:DLBCL)がスパッと6割くらいが治るのとは対照的です。

なので再発を繰り返す方は治癒を目指して同種造血幹細胞移植を実施します。しかし移植には治療関連死という大きな壁があり勇気と覚悟が必要です。

濾胞性リンパ腫と診断された方の治療方針はひとまず限局期か進行期かで変わります。

造血器腫瘍診療ガイドライン参照
http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/index.html

限局期か進行期かは以下の図の通りです。

NPO法人日本統合医療推奨協会
https://www.togoiryou.com/gan/rinpasyuu/

横隔膜を挟んで濾胞性リンパ腫がいる、もしくはリンパ節とリンパ節以外の臓器(肺や腸など)に濾胞性リンパ腫がいると進行期です。

進行期でもだったら化学療法!というわけではありません。進行期でも腫瘍量が少なければ無治療経過観察だってあります。Watchful & Wait (注意深い観察)という選択肢があります。

造血器腫瘍診療ガイドラインを改編(赤丸でチャンマンが囲んだ)
http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/index.html

ね。

濾胞性リンパ腫はやはり勢いがありません。進行期でも腫瘍量が少ない場合(=低腫瘍量)に限りますが、大きくなるまで待っていても、急いで治療を始めても変わらないとされています。どっしり構えてのんびり付き合っていくってイメージがやっぱりあります。

早期再発というありがたくないイベント-POD24-

基本的にゆっくりとのんびりタイプのリンパ腫です。しかし早期再発した場合は危機的状況である可能性が高いです。そのイベントをPOD24(Progression Of Disease within 24 months)と言います。現在濾胞性リンパ腫において最も強力な予後因子、つまり未来を占う情報と言われています。

最初の報告はおそらくこれです。
J Clin Oncol. 2015;33(23):2516-2522.

Patient:濾胞性リンパ腫ステージⅡ以上、リツキサン+アントラサイクリン含む化学療法を受けた患者588人
Intervention:後ろ向き研究のためなし
Comparison:診断から2年以内の再発した群(Early POD) vs それ以降の再発した群(Reference)
Outocome:再発から死亡までの期間

上記のようにPOD24群はnoPOD24群と比べて5年生存率は50%vs90%と明らかに不良でした。

現在ではPOD24の定義が治療開始からとされていることが多いです。

POD24の意義?

早期再発が悪いんでしょ?

それって当たり前じゃないですか?

だから何?私に何しろっていうのよ

はい、そうなんです、そうなんですけど!それをデータとして、事実として認識することが重要なのだと思うのです。

なぜでしょう?

濾胞性リンパ腫は何度もいうように息の長いリンパ腫です。しかし治りにくいという克服すべき性質を持っています。さらに罹患率も多いということから治療成績の向上は僕たちの義務であり試練でもあります。

となると治療成績の向上のために新しい治療戦略が必要となります。そのためにはその新しい戦略を有効というために、今までの治療と比べて優れているということを証明しなければいけません。

治療の目標は生存期間を延ばすことでです。新しい治療戦略で生存期間が延びた、と証明しなければいけません。しかし濾胞性リンパ腫の場合は半分以上の人たちが20年以上生きることができます。なのでその新しい治療戦略が本当に有効かどうかわかるのが20年後とかになってしまう。ということです。

20年!

20年!

一人の赤ん坊がちょうど成人するまでの期間!

日が暮れちゃいます、なんなら時代が回ります。

そんなのんびりやってる場合ではありません。

そこでPOD24の出番ではないでしょうか。POD24を起こしてしまうと生存期間が短くなる、ということはPOD24が起きなければ生存期間が長くなる、と置き換えてしまってもいいのではないか。ということです。

つまり

本来なら生存期間を短くする特徴はなにか、その特徴のある人たちに別の治療法を実施することで生存期間を伸ばせるのではないか。

という新しい治療戦略の開発法が

POD24を起こしやすい特徴はなにか、その特徴のある人たちに別の治療法を実施することでPOD24を防ぐことができるのではないか。

とすることで結果が出るまでの期間を大幅にカットし、新しいアイデアをどんどん試すことができます。中には日の目を見ない研究もあるでしょうが、様々なアイデアがすぐに評価可能となり、成績のスピーディな向上が期待できます。もちろんPOD24による評価は間接的であり最終的には生存期間で確かめなければいけませんが、答え合わせ的な要素が強くなると思います。

すごいですよね。尊敬しちゃう。

ということでPOD24はただ早期再発が悪いということを証明しただけでなく研究の開発スピードの向上に影響を与えている素晴らしい概念と言っていんじゃないでしょうか。

現在はPOD24を使ってガザイバの有効性、初診時PETにおけるSUVmaxや血中DNA量についての報告がされています。また、紹介できればと考えてます。

今回は以上です。ではでは

CAR-T療法について、基本から最近の話題まで簡単に-まずはさわりから-

どーも、去年の夏服が入りません。チャンマンです。

先日ALL(急性リンパ性白血病)の研究会に行ってきました。CAR-Tについてのお話がメインであり、ちょっと巷で話題となっておりさわりだけでも説明していきます。

CAR-T(カーティ)とは

Chimeric Antigen Receptor-Modified T cellsの略でカーティと呼ばれています。おそらく血液内科領域において、ここ数年で最も熱く、さらにあと数年は熱いままであろうトピックです。

先日ノバルティスから出されたキムリア®️が33,493,407円で薬価申請されたことで話題になった治療法です。すごい額ですね。

国内初のCAR-T細胞療法・キムリアが薬価収載 新薬11製品もhttps://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=67510

どのような治療?

方法は以下です。

1,患者さんからT細胞を採取

2,半端ない技術でそのT細胞をガン細胞を攻撃するように改造

3,改造T細胞を患者さんに戻す

4,改造T細胞がガン細胞をやっつける!

ノバルティスホームページにも解説されています。
https://www.kymriah.jp/pt/car_t/index.html

いわゆる細胞療法です。

効果は凄まじいです。従来の治療法では4割程度しか助からない再発ALL(急性リンパ性白血病)の患者さんが8割くらいに効果があるとされています。

ただ、その長期予後(治るかどうか)については議論のあるところです。

Emily Whiteheadという少女

Emily Whiteheadという少女がいます。Googleで画像検索をすると多数の彼女の写真が出てきます。

可愛いですね。

有名な子役タレントですか?

いいえ違います。

彼女は何を隠そうCAR-T療法の恩恵を受けた一人です。

7歳で白血病と診断され寛解を獲得したが再発する、というのを2回も繰り返し化学療法のみでの治癒は困難と判断されCAR-Tへの臨床治験への参加を決意しました。治療は奏効し、現在CAR-Tの威力を表すために再発無しです!とのボードを毎年掲げて白血病患者さんへ希望を与えています。

ちなみにこの論文のPatient1です。
N Engl J Med 2013; 368:1509-1518

CAR-T療法の威力は繰り返しになりますが凄まじいです。白血病以外のガンにおいても注目されています。おそらく向こう数年かはガン治療のメインストームとなり、世界中で盛り上がっていくでしょう。しかし薬価からもわかるように莫大な研究費が必要となります。彼女はガンサバイバーとして世界の患者のために戦ってくれています。本当に尊敬します。可愛いなんて月並みな感想を言った自分が恥ずかしいです。でも可愛いですよね。

副作用について

効果が凄まじいですが副作用も凄まじいとされています。

この図はCAR-T療法において副作用が起こる可能性のある臓器の説明です。

Blood 2016 127:3321-3330

全部やん?全臓器やん?

いろいろなところでいろいろなことが起こりますが主に2つが問題とされています。

①サイトカイン放出症候群(Cytokine release Syndrome:CRS)
②神経毒性

・サイトカイン放出症候群

改造T細胞が体内で活性化し、標的となるがん細胞への攻撃が起こります。その活性化を促す目的で出される体内にサイトカインが過剰に放出されてしまいます。T細胞は元気になるのですがそれがあまりに元気になり、他の細胞も巻き込んで発熱や血圧低下、胸水などによる呼吸不全が起こってしまいます。試験にもよりますが発症頻度は20%〜100%(!!)となっています。初期の試験においては半数の患者さんがICUでの循環・呼吸管理が必要となってしまっています。

重症度をまとめてみました。(以前に発表したスライドです。色味どうです?)

サイトカインであるIL6が原因とされており、ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体であるトシリズマブの投与が必要となります。タイミングとしてはGrade3程度が目安なようです。具体的には5L/min以上の酸素投与、もしくは昇圧剤が2剤以上必要な場合です。ただ、トシリズマブの投与は抗腫瘍効果が落ちてしまうという懸念がありましたが最近の報告では抗腫瘍効果は落ちないんじゃないかという意見が主流なようです。なのでややトシリズマブの早めの使用が推奨されつつあります。さらに効果発現が乏しい場合はステロイドの使用も積極的に考えます。12時間以内に効かない場合は使ってみることを考えるそうです。

・神経毒性

頭痛、幻覚、麻痺、不眠症、振戦、めまい、傾眠、不安と症状は多彩です。基本的に可逆的とされており原因としては実はCAR-T特有というよりCD19との関連が疑われています。

治癒?

今現在はCAR-T療法単独で治癒にいたるのかもしくはやはり同種造血幹細胞移植が必要かどうかははっきりしません。CAR-T療法実施前の微小残存病変(MRD)が陰性な場合は移植が必要でないかもとの意見が多そうです。

品質の向上や再発に対する戦略(主にCD19エスケープに対する)によってさらなる効果が望めそうです。

いったん以上です。とりあえずおさわりだけです。また世代の話や品質の話など基礎的なお話もどこかでできればと考えています。

何か気になるところなどあればお気軽にコメントなど下さいませ。