ここ数日でいくつかの計画が無事遂行されたのでその備忘録を。ちなみにタイトルは大学の部活の飲み会で行われたギャグ大会で後輩がしたギャグだ。
いくつか遂行した、とい書いたがそのどれもが遂行されただけで成功してはいない。いや、成功したかはまだわかっていない。走り切ったけどまだタイムがわからないって感覚。3つの計画だったのでさながらトライアスロンってとこ。
まずは水泳にあたる第一競技。12月1日に受けたバイオインフォマティクス技術者認定試験。
https://www.jsbi.org/activity/nintei/
基礎研究をしていて論文などを読んでいると遺伝子発現の結果や、綺麗なfigureの解釈がわからん、などといった大学院生あるある。なんとか自分も足をつっこみたい、理解したいし、なんなら使いこなしたい。でも何をしたら良いかもわからない。ということで最初は解析の勉強をしようとして統計学2級を目指していた。
かめさんの動画とかである程度勉強してある程度はわかっていたがその先の自分で操るというような段階に行くまでのステップが大きくなかなか羽ばたけなかった。そんなところにこの試験の存在を知ってとりあえずこっちも勉強してみるか、という気持ちで勉強し始めた。
過去問を1年分やったくらいで分子生物学の話が結構でていたのがとても面白く思った。中でも超可変領域の存在で一気にこの試験のやる気が出た。超可変領域はタンパクの中で反応が起こりやすい部分で、アミノ酸配列である程度決まっており、遺伝子の配列を見るだけでそれがどこにあるかがわかる、といったものだ。例えばTP53はさまざまな分子に働きかけたり働きかけられたりして重要な働きをしているが、その様々な分子との相互作用を可能にしているのがその超可変領域である。
臨床をしていた時にはタンパク質がアミノ酸が連なったもの、くらいしか考えていなかった。しかしアミノ酸はランダムに連なっているのではなく、そのタンパク質の働きを遂行できるような形や機能をつながり方で規定しており、アミノ酸の種類だけでなくその配列も重要である、という概念は僕の中では新しい扉を開けた。気がする。
さらにその超可変領域を知った時にちょうど研究カンファで、研究派の先生が気になる分子の中に超可変領域があることに着目してある仮説の着想を得た、みたいな話をしていた。このバイオインフォマティクスの試験勉強をしていなかったら全く知らなかったことが、常識なのかもしれないという焦りに似た感情が湧き出て、とりあえず受かるくらいまでは勉強しようかと思った。
しかしこのバイオインフォマティクス、インフォマティクスのところが曲者で、遺伝子配列の決定のアルゴリズムであったり、質量分析の方法論であったり全く自分の実験に触れていないカテゴリーの問題は全くわからない。全くは言い過ぎだが結局わからないままで終わった気がする。ただ、なんとなく雰囲気は掴めているので必要となったら勉強はしやすいと思うので及第点ということにしておく。
試験はCBTという方式で、試験センターに行ってパソコンで受けるスタイルだった。その場で結果がわかって、結果は66%だった。60%以上が合格のラインなはずなので受かったと思うが点数が点数だけにあんまり達成感はない。でも生命科学と遺伝進化の範囲はなんと100%だった。今まで試験であんまり100%って部分的にも出したことなかったので嬉しい。
次はトライアスロンでいうと自転車、それは12月13日の抄読会。内容はかなり迷ったけどNatureのCHIPの大規模解析についてにした。僕はなんとなくCHIPが好きだ。前癌病変であるが結構多くの人が持っているというのがなんか大きな意味を持っているような気がする。人が生きる上で。
謎の哲学はさておき、この論文はSNPの変異を年齢とVAFを使ってgermlineの変異か判断してCHIPにどれくらい寄与しているかを調べている。今までで一番大きな規模が6万人くらいだったのが今回は60万人という超大規模解析。CHIPはいろんな癌と関連しそうな遺伝子が関わってそうということと、mLOYとかmLOXとかmCAのような染色体異常の視点から見たクローン性造血とは重なっていなかったこと、血液がんはもちろん固形がんも種類によっちゃ多くなっちゃうこと、そして心血管病とはあまり関係ないかも、という内容。
染色体異常のクローンと違うっていうのは面白い。元々のイメージは遺伝子異常が増えて染色体異常が起こってくるものと思っていたので染色体異常を持っている人は遺伝子異常を持っていると思っていたが、両者は含有の関係ではなく、互いに違う集合だった。つまり、遺伝子異常と染色体異常は別なものを見ているということなのだろう。ちょうど今臨床研究しているテーマについても面白い考察になるのかなと思った。
あと、質問ももらったのだが血液がんはわかるが固形がんはなんで増えるのかという疑問は確かにある。僕の理解ではCHIPを持ってしまう人は遺伝子の不安定性が高く、増血器以外の組織においても前癌病変であるクローンが起こりやすいのではないかと思ったのだが実際はどう解釈されているのだろうか。
ちなみに僕はNatureとかから抄読会の論文を選ぶのが多い。理由としては自然科学系の雑誌はあまり目に入ってこないから他の人にとっても意味があると思っているということと、あるHPでそっち系の論文の紹介をしてるからということがある。
本当はこの論文を選ぶ前にAMLのMRDのことについての報告でしようかなと思っていた。実際3割くらい完成させていた。
日本血液学会でAMLのFCMによるMRDの話を聞いてその勉強がてらJCOで出たFLT3AMLのMRDについての論文でやろうと思ったのだがCHIPの論文を見て、解析の仕方とか結構ちんぷんかんぷんだがチャレンジしてみたい!という精神が勝ってしまった。この辺りは僕の秘めたる衝動性なのだろう。
やはりAMLにおいてFCMでのMRDはある程度はコンセンサスが生まれつつありそうな感じだ。JCOの論文ではNGSのMRDの方がいい、という結論だったが。
Blood. 2022 Sep 22;140(12):1345-1377. とか、https://ashpublications.org/hematology/article/2022/1/9/493487/Achieving-MRD-negativity-in-AML-how-important-is とかが参考になりそう。
そして最後はある学会のトラベルアワードの応募、これが結構たいへんやった。内容はこの2月くらいから画策し始めた他施設共同の臨床研究の結果についてで内容は伏せますが、なんといっても結果が揃ったのが12月2日、つまりこのトライアスロンが始まったあたりから大変なレースが始まっていたのです。
まずはデータの整理、そして計画していた2つのテーマの解析、ひとつのテーマは結局有意差はなく、発表には耐えれそうにないと判断、そしてもうひとつのテーマはindexの作成だったのでたくさんの解析、そしてその解析は本当にたくさんするのでEZRでするには手間がかかりすぎるのでRコードを書くことを決意、そしてなんとか形にすることに成功!そして抄録をセット!ターン終了だ!
ということでASHにいく直前のボスに抄録をいきなり渡してトラベルアワードへの推薦の許可をいただいた。抄録書いたのでよければ推薦お願いします!って感じだったが今考えるともう少し丁寧にことを進めても良かったのかもしれない。トラベルワードありますけど抄録書いていいですか?みたいに。結構寝不足だったし気持ちも昂っていたということだろう。許可をもらえて安心したのも束の間、署名が必要なことに気がついたのはボスがASHでアメリカへ行った後。そして締切は今日、つまり昨日帰ってきたボスのASH後初通勤日。基礎実験と有意差がなかった方の臨床研究の方針相談に付き合ってもらってから無事に署名入り推薦書をいただいたのであった。
そして先ほど(といっても19時くらい)必要書類一式を送信しこの激しいレースを無事完走した。実際ASHも採択されてないし今回の試験とか応募とかもなんとなく弱気だがやってる感は出たし、興奮できたしで楽しかったので今後も色々チャレンジはしていこうと新たに決意したのであった。
去年は症例報告2報と臨床研究1報出せたのに今年は成果としては何もなく、焦る気持ちはあるが年度として考えて、あと3ヶ月過ごそうと思う。可能ならばもう少し色んな種を蒔いて来年度に回収できるようにしたい。そんな当直中。